れとろぐ

後光暴龍天を目指す音ゲーマーれとり(暴龍天)の日常

クリスマス・その一

(この記事は何年か前の3月下旬に書きました)


メリークリスマス!

皆さん、いかがお過ごしでしょうか

私はバイト漬けの毎日を過ごしております

何故か世間はホワイトデーが終わったばかりであるかのような雰囲気になっておりますが、きっと時空がゆがんでいるか集団催眠にかかっているか、どちらかでしょう

誰がなんと言おうと私はクリスマス前の日本にいるのです

 

というわけで、今日はラブプラスで彼女を作るのに二回失敗した或る男の、或る年のクリスマスの話でもしようと思います

 

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遡ること数年

 

彼は高校一年生でした。

青春真っ只中の彼は一つ上の部活の先輩に心を寄せて、あの手この手でお近づきになろうと必死になっておりました。

ごまかすために他の先輩の連絡先と一緒に意中の先輩の連絡先を聞いたり、男の先輩から意中の先輩の好みを聞いたり…とにかくヘタレなことこの上ない、外堀を埋めるようなアプローチをしていました。

 

そうしてヘタレな彼は、メールすること数回で向えたある日、突然決心し、なんと直接告白することにしたのです。何が彼をそうさせたのか、今ではもうわかりません。しかし、直接告白しなければ男がすたると思っていた、と彼は語ります。どの口が言っているんだ。

誰かに現場を目撃されるのが恥ずかしかった彼は、先輩を呼び出し、高校から歩いて数分の公園でミッションに取り掛かりました。高校から歩いて数分の公園に知り合いがいる可能性には考えが及ばなかったようです。

そうこうして先輩と対面し、意を決して口に出した言葉は「好きです」の一言。シンプル・イズ・ベスト。男らしいんじゃないですか?知らんけど

 

その言葉に対し返ってきた返事は…「で?どうしてほしいの?」

 

前日からその瞬間まで脳内シミュレーションを必死に行い、OKされた流れから「ごめんなさい」と言われたときの流れまで完全に想定していたつもりだった彼も、この返事は全くの想定外で完全に脳が機能を停止しました。

後から考えれば、確かにこの返事も全くおかしなものではありません。サンドイッチ屋で客に「俺、このサンドイッチ好きなんだよね」と言われても、店員は「そうですか…ご注文はお決まりですか?」と返事をするのが関の山でしょう。私なら「は?」と返事をすると思います。その点で言えば先輩は人類愛あふれる慈悲深い人だったのかも知れません。

しかし、その返事さえ想定しておらず無事思考を停止した彼は、しどろもどろになりながら「つ、付き合ってほしいです…」と答えるのが精一杯でした。

俺の青春、完。完全に終わった。と、彼が青春の終了をはっきり感じながら、遠のく意識の中聞こえてきた言葉は、しかし予想外なものでした。

「いいよ。付き合おう。」

自宅へ帰り布団に籠もりかけていた意識が一気に隣街の公園まで引きずり出されました。まさに衝撃。

こうして、彼に人生初の彼女が出来たのです。彼が長い間抱いていた想像が、現実のものとなった瞬間でした。

 

それからの数カ月、彼は人生史上最も浮かれていました。

メールには彼女からだとわかるよう特別な着信音を設定し、着信音がなる度にベッドで悶えまくり、返信を考えるのに2,3時間かけたり、彼女の名前を見るだけでにやけたり…昔の彼は本当に気持ち悪いことこの上ない男でした。昔の彼は。

彼女と一緒にご飯を食べて浮かれ、修学旅行に行った彼女からお土産をもらって浮かれ、誕生日に手作りのクッキーを貰って浮かれ、最早彼女のことを想像して生きているだけでも幸せだったそうです。本当に気持ち悪い男だったんですね、昔の彼は。

そうこうして過ごしているうちに、ついにカップル界隈の一大イベント、クリスマスが近づいてきました。

 

今までいろいろもらった分お返しをしようと思い、とりあえずクリスマスのアポを取ろうとメールを送ったのですが、少し様子がおかしい。

今まで絵文字が入らなかったことのなかった彼女のメールに、一つの絵文字もなく、返事もそっけない。流石にこれは変だと思った彼でしたが、他になにをすることも出来なかったのでクリスマスは空いているかどうかだけ尋ねることにしました。

結果。クリスマスは大学の見学に行くので空いていないが、23日なら空いている、とのこと。

大学に負ける彼氏。なんとも惨めなものですが、当時の彼は「大学なら仕方ないか…」と諦め23日に会うことにしたのでした。諦めのいい男です。

クリスマスに会うことは叶わなかったものの、23日に会うならプレゼントくらい渡せるだろうと思った彼は、彼女へのプレゼントを買いに行きました。彼女へのプレゼントを買う彼氏、ずっと憧れてたんだよ、と彼は語ります。

ショッピングモールを徘徊し、悩みに悩んだ末選んだのはシュシュでした。彼女が普段シュシュで髪を結んでいる姿が、非常に印象深かったのです。使ってもらえるだろうか、喜んでもらえるだろうか、似合うと良いな…そんなことを考えながら、丁寧にラッピングされたそれを、カバンに忍ばせたのでした。

 

そうして来る23日。待ち合わせ場所は高校でした。

雪が積もり身も冷え、心まで凍えそうな寒さの中、待ち合わせの時間より早めにきた彼がホットレモンを飲みながら彼女を待っていると、遠くから彼女が歩いてくるのが見えました。

彼の目の前まで来た彼女は、しかし歩みを止めずに彼の前を過ぎ去っていきます。黙って自分の前を通り過ぎる彼女の、只ならぬ雰囲気に圧倒された彼は、どこへ行くのか?という疑問を声にすることも出来ず、ただ無言でその後姿を追いかけるのみでした。

たどり着いたのはすぐそこ、校門の前。歩みを止めた彼女の表情から、これから出てくる言葉が容易に想像できました。

 

否、本当はもっと前から想像はしていたのです。今日何を言われるのか。自分が信じたくなかっただけで。わかりたくなかっただけで。

大学に見学に行くならクリスマスに会えなくても仕方ないなんて、心の底では思ってはいなかったのです。彼女はまだ高校二年生、見学に行くにしたってもっと他に時間はあるはず。つまりはクリスマスに自分と会いたくなかっただけなんじゃないか。

そんなことに気付きたくなくて、少しでもカップルらしいことがしたくて、気を紛らわせるように彼はプレゼントを買いに行ったのです。もしかしたら、プレゼントを渡せば、またメールに絵文字が戻ってくるかも、そんな希望を抱きながら。

しかし、何時になく真剣な彼女の表情は、そんな希望をいともたやすく打ち砕いてくれました。

 

「別れよう。」

ついに、再び想像が現実のものとなりました。彼女の口から出たその言葉は、想像していたとはいえ、彼の心を折るのには十分すぎるものでした。

しかし、彼女はまだ、言葉を繋いだのです。

「本当のことを言うと、私は君のことを彼氏だと思ったことはなかった。」

彼は耳を疑いました。ネガティブなことに定評のある彼も、別れの言葉以上に破壊力のある言葉が出てくるとは予想だにしなかったのです。

「一緒に御飯を食べたときだって友達と食べてるような感覚だったし、どうしても彼氏だと思えないから、形から入ってみようと思ってお土産を買ってみたり、お菓子を手作りしてあげてみたりしたけど、やっぱり彼氏だとは思えなかった。」

衝撃的なカミングアウトに、最早放心状態となった彼は、ただただ彼女の言葉を無言で聞くことしか出来ませんでした。声も出ないとはまさにこのことです。

「告白場所の選び方もどうかと思ったし。正直あそこは無いと思うよ。あと、最後に一つ言うけど、私と別れたからって部活に来なくなるとかやめてよね。」

傷口に塩を塗った後にナイフを刺すかのように追い打ちをかけ、そう言い残した彼女は、すぐに彼の前から立ち去りました。呆然と立ち尽くす彼のもとには、雪についた「元」彼女の足跡と、ラッピングされたままの「元」彼女へのプレゼントだけが残されていました。「トラウマ級の思い出」という、「元」彼女からのプレゼントと共に。

 

こうして、彼の、最初で最後の彼女との関係は、最初から最後まで予想外の展開で、クリスマスを向かえることなく終わったのでした。

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彼は結局高校一年生のとき以来彼女が出来ていないそうです

毎年12月になるとこのときのことを思い出してしまうとかなんとか…

もうさして辛くはないようですが、どうにもこの話をせずにはいられないらしいです

クリスマスを彼女と過ごしたことが一回もない彼が、このことを思い出さずに済むように、幸せに彼女と過ごせる日が来ることを、私は切に願っております

誰か彼にいい女の子を紹介してあげてください!!!お願いします!!!!

というわけで

 

メリー・クリスマス!