れとろぐ

後光暴龍天を目指す音ゲーマーれとり(暴龍天)の日常

The DAY

春休み最終日前日の夜から、その次の朝にかけてのことである。

私は夜行バスで東京から京都へと向かっていた。

3月末頃に同郷の友から突然東京に呼ばれた私は、その場で東京へ行くことを決意し、友人たちと遊んできたのだ。唐突に1泊3日で東京へ行くことを決め、友人たちと飲みに行くなど、大学生の間くらいしかできないことだろう。特に何もしていなかった私にとって、大学生らしい事をするいい機会だった。往復夜行バスで体力は使ったが、非常に楽しい時間を味わえてよかったと思う。

 

そんな旅の帰りの話である。

 

友人たちと飲んでいるとき、ふと「なぜ私(れとり)に彼女ができないのか」という話になったのを思い出していた。

普段話すような異性の友人もおらず、この年になっても未だ「卒業」できずにいる。このまま行けば魔法使いになるとかいうアレを。

当然ながら、友人たちは(おそらく)全員卒業済みだ。もちろん彼女持ちだっている。

今は年度も変わり研究室が始まるという転換の時、友人たちの現実と自分を比べ、これからの人生に不安と焦りを感じ始めていた。私はこのままでいいのか?と。

そこで私は決意した。

 

 

そうだ、飛田へ行こう。

 

 

この決断をしたのには、他にも理由はある。

昨年度一年間かけて、私は「彼女貯金」というものを行っていた。

年度中に彼女が出来れば彼女のために貯金を全額使い、彼女が出来なければ他のことに全額使ってしまおうというシンプルなものだ。彼女が出来なかったときの使いみちは(出来たときの使いみちもだが)特に考えていなかったが、ぼんやりと、どこか遠くへ行くか、風俗に行くかどちらかにしようと思っていた。

そんなこんなで一年過ごし、案の定であろうか、使いみち未定のお金が3万円近く出来ていたのだ。喜んでいいのか悲しんでいいのかわからないが。

友人たちと話して生まれた焦りと不安、年度が変わっても彼女が出来ない自分に変化を起こしたいという意思、そして必要十分と言える資金。私が飛田行きを決意するには十分すぎた。

 

 

京都へ着いた私は、駅前のネカフェで休憩しながら飛田について調べていた。

並び立つ店の玄関口に女の子が座っていて、客呼びのおばさん(やり手ババアと呼ばれるらしい)が常に声をかけてくること。

料金は20分16000円がスタンダードであること。

終了後にペロキャンがもらえて、それを舐めているとやり手ババアに声をかけられなくなるということ。

調べればたくさんの情報が出てくるが、私は拭いきれない不安を抱えていた。

「未経験者」が行ってちゃんと楽しめるのだろうか?と。

こればっかりはいくら調べても回答など出てこない。個人の問題だから当然である。

しかし、不安を抱いたまま現地へ向かい、緊張や焦りでろくに何も出来なかったら意味がない。私は少しでも気持ちを落ち着かせるため、必死に情報を集めていた。

 

 

その後家に帰った私は、とりあえず貯金箱を割ることにした。

割れていく貯金箱をみると、様々な感情が溢れてきた。

よくここまで貯めたなあという感心、去年はいろいろあったなあという懐かしみ、結局彼女は出来なかったなあという落胆、なんで出来なかったんだという行き場のない怒り。貯金箱にたまっていたのはお金だけではなかったらしい。

そこで疲れがどっと出た私は、いい時間になるまで仮眠を取ることにした。

 

 

17時ころ。目覚めた私は腰を上げ、資金を掴み外へ出た。

京阪に乗り大阪へと向かう。外を見れば桜が咲いていた。世間は春である。

まだ春のこない私が人生の転機を迎えるには、うってつけの天気であったように思う。(テンキだけに)

そういえばどこかのバーチャル委員長も飛田に行きたいなんて言っていたなと思い出し、緊張がほぐれたような気がした。やはりバーチャル委員長は偉大である。クローバーよ永遠なれ。

ここで何か変わるかもしれないし、何も変わらないかもしれない。それでも変化しようと行動した事実だけは残る。それが大事なのだ。なんてことを考えながら、おおよそ(多分)風俗に行く人間には見えないであろう神妙な面持ちで、目的地へと向かった。

 

 

動物園前駅につく頃、外はすっかり暗くなっていた。

アーケード街を歩きながら、独特の治安の悪そうな雰囲気にすでに戦々恐々としていた。「生きてここを抜け出そう…」と訳のわからない決意をした私の気持ちをわかってほしい。夜の大阪は恐ろしいのだ…

地図を見ながらその場所へと向かって歩く。本当にこんなところにあるのか?と思うほど暗い道を行くと、しかし本当にその場所はあった。

 

 

並び立つ料亭。店の前には戸がなく全開状態で、玄関には女の子が座っている。

何軒も同じような建物が連なるその空間は、異界のような雰囲気で私を圧倒した。

前を歩けば「お兄さん!ちょっと見てって!この子かわいいよ!」なんてやり手ババアが容赦なく声をかけてくる。

「ここが日本か…Amazing...」という声が漏れた…のは頭の中だけで、実際に口から出たのは「ほぁあ…」という間抜けなため息だけだった。やばたにえんである。

 

さて、普段女子と喋らない男がここに来るとどうなるかであるが、まずは女の子選びに苦労する。女の子と目が合わせられないため、顔が見られないのだ。これでは女の子が店の前に座っている意味がない。私は自分で自分の臆病さに笑ってしまった。

自分を笑って帰るわけにも行かないので、必死の思いで女の子の顔を見ながら「青春通り」と「メイン通り」と呼ばれる通りを歩いていたが、一周しただけで変な汗が出てきて疲れてしまった。この子らはみんな来た男らと出会って5秒で合体してるんだよな…なんて余計なことを考えると、あまりの異様さに頭がおかしくなりそうだった。やばたにえんのむりちゃづけである。マジ卍。

 

何周もして女の子を選んでいると、気に入った女の子がいてもすぐにいなくなるという噂を聞いていたので、私は一周だけで女の子を決めて料亭へと入ることにした。普段は優柔不断な私だったが、3月末からこの日にかけての決断力は異常に高かった。春休みの終わりというのは人に未知の力を与えてくれるのかもしれない。夏休みの終わりにも未知の力で無限ループしてる人がいたしな。

 

いろんな女の子がいたが、選んだ基準は髪型だった。もちろん顔も少しは見たが。私の一番好きな髪型であるところのボブの子を選んだ。なぜ髪型で選んだのか?だいたいみんなかわいいけどドストライクの子はいなかったのが半分、必死になったとはいえちゃんと顔を見ることが出来なかったのが半分である。なんとも情けないが、どの女の子を選んでもある程度は可愛いのでよしとしよう…いいんだ、最初だし。

ちなみに、服装も普通の格好からコスプレじみたものまで多様であったが、店に入ればどうせすぐ全裸になるので、これから行く人は服装を基準に選ぶのはやめたほうがいいと思う。「自由恋愛」に発展する人間を顔だけで選べるのは世間広しといえどここくらいであろう。存分に顔で人を選ぼう。

 

料亭に入った私は、女の子にお茶とお菓子を出されて早速「自由恋愛」に発展した。コイニハッテンシテ・・・

お茶とお菓子には手を付けていいのか、調べるのを忘れていたため手は出さなかった(出せなかった)が、女の子に手を出せるのだからそんなことは些細な問題だった。

女の子から普通は20分かな~と伝えられた私は、事前情報と合致することを確認して20分のコースをいただくことにした。女の子に16000円を渡すと、「服脱いで待っててねー」と言われ、一人部屋に残された。

 

そしてついに、そのときは来た。

 

服を脱いだ女の子が部屋に入ってくる。

そこからは、女の子にバッチリとリードされ、なされるがままに、なすべきことをした。

「実は僕、童貞なんですよ…」なんて情けない告白をすると、「ええ~!大丈夫かなあ…でも一緒に頑張ろ!」なんてエロゲーのようなセリフを言われてしまったので、私はもう頑張るしかなかった。ここは現実か?なんて思い半分夢の中のような気分で、その時を過ごしていた。

詳細をここで描くつもりはないが、女の子のおかげもあってか、20分以内にゴールへとたどり着くことが出来た。今日は初めてだし、緊張やら何やらのせいで16000円払って何もデキずに終わるなんてことがあったらどうしよう…という自分の心配が杞憂に終わってよかった。やはり事前に下調べして少しでも心を落ち着かせていたのはかなり有効だったようだ。ありがとう、先人たちとバーチャル委員長。マジ卍。

 

少し時間が余っていたので、女の子と話をしていると、大学の話になった。

「薬学部なんですよ」と伝えたところ、「へ~!薬学部ってことは薬剤師の資格とるの?」と言われ、薬科学科の私はいつものことながら「いや、資格は取らない方ですね…」と答えると、「えー!資格は絶対取ったほうがいいよ~!」と言われてしまい若干テンションが下がってしまった。

なんだか悔しかったので、「一応京大なんですけど」と伝えると「私の元カレも京大生だったんだよね~、しかも医学部でめっちゃ賢いの!ちょっと頭おかしかったけど笑」なんて言われてしまったので、もう完全に敗北であった。何に負けたのかはわからないが。

その日テンションが下がったのはこのときくらいだったので、これから飛田に行こうと思っている人は大学の話はしないようにするか、東大医学部を自称しよう。お兄さんとの約束だぞ。

 

ペロキャンをもらい外へ出た私は、ついに、正規ではないにしろ、曲がりなりにも卒業できたんだなという、少しばかりの満足感を得て外を歩いていた。

大体は事前情報通りの飛田だったが、ペロキャンの情報は少し違っていた。アメを舐めていようがやり手ババアは声をかけてくるし、「お兄さんおかわりどう!」なんて声をかけてくるやり手ババアもいた。ご苦労さまである。

 

夜の街を歩き、来たときよりも怖さが薄れたアーケード街を抜け、私は帰路についた。怖さが薄れたのは、自分になにか変化があったからかもしれないな、なんて思いつつ。

 

 

 

あの日から一ヶ月経ち、研究室生活にも若干慣れてきたころ。

あの日、自分の中でなにか変わったのかは、正直わからない。

ただ、童貞芸をする気は前よりも無くなり、彼女も昔ほど欲しくはなくなったような気がする。それが、あの日のおかげなのか、はたまた研究室で忙しない毎日を過ごしているからなのかは定かではない。

だが確かにあの日私は満足感を得たし、あの日のことを後悔したりもしていない。公開はしたが

飛田へ行こうか迷っている童貞諸君は、お金があるならまずは行ってみるのがいいかもしれない。童貞芸で空虚に潰す時間が減る…かもしれない。

 

 

卒業したとはいえ、未だ「素人」の肩書は取れていない。

しかし、今はなぜだか、そのうち素人でもなくなるような気がしている。

それはあの日得た自信のおかげ、なのかもしれない。

何にせよ、飛田に行ったのはいい経験になったと思う。未知の世界に触れるのは、いつでも心が躍るものだ。

 

 

 

彼女貯金2nd season、始めようかな